☆第1話☆
 由紀哉は今夜も、イかなかった。
(ちょっと、またなの!? カラダ売ってんだから、ちゃんと最後までセックスするのが、当たり前でしょ!?)
 ぽろんとヴァギナから外れてしまった、情けないくらいに縮んだペニスが、どうしようもなく悔しかった。

(なんで勃たないの? 私ってそんなに魅力ない?)
 二十二歳の彼は二十九歳の女のカラダでは、発情しないのだろうか。
 ハタチの女の子に比べれば、そりゃあ、おっぱいだって垂れてるだろうし、お尻の肉だって、弛んでいるかもしれないけれども。

 私の上に乗っている由紀哉の顔を、じっと見つめた。ポークウインナみたいに小さくなったペニスを、ちんまりと私のお腹の上に乗せたまま、彼はなぜか笑っていた。苦笑いというよりは、泣き笑いみたいな顔……。
 なんで笑ってるの、とまたムカッとしたけれど、それが精一杯の彼の強がりなのかもしれなかった。

 そんなおち○ち○で、よく、この仕事してるね。そう言ってやりたいけど、むちゃくちゃ傷つくだろうから、言わない。それに、言い返されるのが、怖い。
「うるせぇババァ!てめぇとヤる時だけ、勃たねぇんだよ!」
 そう怒鳴られそうな気がして。

 由紀哉は複雑な笑顔を見せた後で、
「……ごめんね」
 とだけ言った。
「……ううん、いいのよ」

 これもいつものこと。私はいつでも、物わかりのいいお姉さんを、彼の前で演じている。もうこれで何度目だろう。イかない売春少年に対して、私は毎回毎回、なんで正規料金を支払ってるのだろう。

 シティホテルのテレビからは、北海道の、雪で出来たクリスマスツリーが映し出されている。朝だからなのか、レポーターの声は元気いっぱいだ。

 今日はクリスマス。私はクリスマスイブの相手を、お金で買ってしまった。
彼氏がいない私は、ひとりぼっちでこの朝を迎えることが、たまらなくこわかったのだ。

派遣社員の毎日は、それなりに残業もあり、忙しい。もう2年も恋人がいない淋しさは、進んで残業を引き受けることや、広めのベランダでガーデニングに励むことで、それなりに紛らわせることができた。

でも時々、独りが耐えられなくなることがある。
そんな時、私は、由紀哉を買う。

割り切った、ドライな付き合いのつもりだった。けれども、由紀哉のペニスは、割り切れていない彼の気持ちを示しているかのように、萎えている。

「俺、勃起や射精にすっごく時間がかかる。イかない時のほうが多いんだ」
 そう言い訳されるけど、一度くらい、彼がイくのを見てみたかった。白い液をどろりとコンドームの液だまりの中に流し込んでもらいたかった。
「ねえ」
 そそくさとゴムを外している彼に、私は、問いかけた。


(第2話はこちらです)

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