恋愛は、病気である。

 三十代となった今、周囲に恋愛症状な人は大勢います。婚約破棄されてノイローゼになったとか、結婚生活のストレスでうつ病になってしまったとか、先の見えない不倫に苦しんで、過呼吸になたとか。ココロのビョーキというものが、ちらほら、お互いの話の中でも出てくるくらいに、それはポピュラーなことになってきました。

 それに用語的にもラブアディクション(恋愛依存)とかいう用語もできて、わりと理解されやすくなってきました。
 私も、カラダで学んだことがあります。
 恋愛とは、ヤマイなのだ、と。
 恋愛という名の症状なのだ、と。

 人間は、惚れたら、相手に狂信的になり、執拗にこだわります。恋をすると、食欲がなくなり、時に眠れなくなったりもするし。
 これが“症状”でなくて、なんでしょう。 実際“恋煩い”という言葉だって、昔から使われています。恋愛は、人をなんらかの異感情に連れ込むし、いつもの自分では考えられないほどのエネルギーをも生み出します。

 この短篇集の提案を、フリー編集者の上野玲さんからいただいたのが、三年前、二〇〇一年の六月でした。私のエッセイの出版パーティーにお会いした時、
「内藤さん、あなた?普通の小説を書いてみましょうよ。普段セックス描写 ばかりのあなたが書く“セックスレス”小説なんてどうかな」
 と、そうおっしゃったのです。当時私は官能小説ばかりを量産していましたが、一般 小説に憧れも抱いていました。だから、挑戦してみようかなと、心が動きました。

 テーマはセックスレス。本当のセックスはコワイ。だけど、だからこそ身体の他の部分には過敏に反応してしまう……。そんな女性達を描こうと思いました。7つの短篇集のそれぞれが身体の部位 になっている、イミシンな小説となりました。

 ひとつひとつのお話に、ひとつひとつ「恋愛絡みの症状」を組み込みました。それはパニック障害だったり、流産だったり、はっきり単語として存在しているものもあるし、うまく相手に近づくことができない、コミュニケーションの問題もあります。
 恋は幸せなばかりでもない。“症状”が表に出て、苦しくてたまらないことだってある。だけどそれでも恋愛をやめられない。むしろ、恋愛にすがる……。そんな哀しさをこめて、書いていったつもりです。

 上野さんは普段、エッセイや雑学系の書籍をプロデュースされている方でしたが、小説の企画は初めてということで、コネクションづくりなどにも色々と骨を折ってくださいました。正直に言えば、この本は二年前にもう書き上がっていました。でも何社にも断られて、なかなか出版に漕ぎつけずにいました。 二年経って、今、私と上野さんが作ろうとしていたものが、少し時代を先取りしすぎていたのだなということがわかってきました。

 二〇〇四年現在、セックスレスは本来ヤりたい盛りであるはずの若者にまで蔓延し、心療内科に通 う人が非常に増えているというデータもあります。
 セックスレスから目を背けることができなくなってきた現状が後押ししてくれて、このたび、徳間文庫より出版が決まったことを、とてもうれしく思っております。いろいろとご尽力くださった編集の高田暁郎さんには本当に感謝しております。ありがとうございました。

 また、私に「セックスレスの連作小説」という素晴らしいご提案をくださった上野玲さんにも心より御礼申し上げます。上野さん自身、うつ病と日々付き合っており、そのことに関する本もたくさん書かれていらっしゃいます。お互いにヤマイについてあれこれと心に溜まっていることがあったからこそ、素敵な作品ができあがったのだろうと思います。

 この本を読んで、読者のみなさまがいろいろな意味で「他人事ではない」と感じていただければ、それがいちばん嬉しい気もします。私達は本来愛し合う生き物のはずなのです。この本が、あなたの背中をそうっと押して、あなたが一歩“あの人”に歩み寄る勇気となりますように、願っています。

 
二〇〇四年秋のはじめに 内藤みか

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