セックスレス短篇集 恋愛症状 内藤みか 徳間文庫より 11月5日、発売!
腋 〜潔癖シンドローム〜 1 恋をすると、相 手の男には自分の いい面ばかり見せ て、アピールした くなる。 私の場合、それ が、肌だった。 なぜなら彼が、 私の肌を誉めてく れたからだ。 友達の紹介で知 り合ったトシオと、 何かの拍子に二の 腕と彼の手のひら がぶつかったこと があった。一緒に テニスをした後、 ミネラルウォータ ーを手渡してくれ ようとした時だっ たかもしれない。 「すごい」 彼が唸るように 言って、眩しそう に私を見つめた。 あの顔を、今でも おぼえている。 「つるつるだね」 そんな風に私の 肌を誉めてくれた 人を、私は知らな かった。 「そんな。みんな こんなものでしょ う?」 「いや」 確信ある顔つき で、トシオは首を 横に振った。過去 に触れた、他の女 達のことを思い出 していたのかもし れない。彼は思っ ていることを、は っきり口に出す男 だった。 「かなり、つるつ るしてると思うよ」 そう断言した後 で、物欲しげに私 を見た。 君は、全身、こ んなふうに、すべ すべしているんで しょう? とでも いいたげな顔で。 あの瞬間、私は、 恋に落ちた。 前からトシオの ことはいいなと思 っていたが、その 彼に求められてい る、その直感が、 私に火を点けた。 でも、トシオに 喜ばれるほど、私 の全身は、美しい わけではない。腕 や脚のムダ毛は少 なくはないし、ワ キと合わせて定期 的に脱毛や脱色を 繰り返さなくては ならなかった。脱 毛した後は、どう しても表面がちく ちくしたりもする。 トシオが嘆息し て「すべすべだ」 と呟くほどのもの ではない。 だから、私は永 久脱毛を、決意し たのだった。とい ってもお金がない から、最初はワキ。 それから腕、脚、 と、進めていくつ もりだった。袖の 下からちらりと覗 く部分が、彼を萎 えさせてしまうよ うな状態だったら、 恥ずかしいから。 だけど……。永 久脱毛が、こんな に時間がかかるも のだなんて、私は 知らなかった。一 回では、終わらな いのだ。 施術自体は、三 十分足らずで終わ る。 毛根を焼き切る というライトをワ キ全体にさささッ、 と照射するだけな のだから。ちょっ とした熱を感じる 程度の、あっけな いものだ。 昔は一本一本、 針で処理していた ので、痛いし、気 が遠くなるくらい の時間がかかった という。 昔「一時間やっ ても十分の一も終 わらないの」と友 達がよく泣き言を 漏らしていたのだ から、技術という のは日々進歩して いるんだろうな、 とは思うけれども。 でも、私の想像 より、ずっと現実 は厳しかった。 少しの痛さと熱 さが消え去った後 には、ムダ毛ひと つない、ワキの下 が、現れる、と、 思っていたのに。 「ほら、いかがで すかぁ?」 エステティシャ ンがにっこり笑っ て声をかけてきた。 彼女は坪井という 名札を胸に付け、 桜色に頬を染めな がら、私に満面の 笑みを作ってくる。 でもその笑顔が、 心の底からではな いということを、 私は見抜いていた。 彼女の細い目は、 決して笑ってなど いない。ただ、客 のご機嫌を取るた めの、愛想笑いで しか、ない。 だって、私のワ キの下は、ちっと も綺麗ではなかっ たからだ。 鳥肌のようにつ ぷつぷと丸く毛穴 が盛り上がってし まっている。いか にも脱毛処理をし たばかりです、と いうような痛々し い感じだ。それに 皮膚の奥の方に少 し黒ずんでしまっ ている部分があっ て、みっともない。 「なんだかちょっ と……考えていた のと、違うんです けど……」 そう伝えると、 彼女は困ったよう な顔をしつつも、 笑顔を消さないま ま、 「まだ一回目です から……。それに これからワキ用ロ ーションを塗って、 皮膚の汚れや角質 を取っていきます ので、繰り返して いけば、綺麗にな っていきますよ」 と答えた。 私は、沈黙した。 数万円で両ワキ を永久脱毛できる という安い店にし てしまったのがい けなかったのだろ うか? やはり、 安いところでは大 してキレイにはな れない、のだろう か? 脱毛は、今日だ けで終わりという わけではない。最 初のカウンセリン グの時に一応説明 は受けていたけれ ど、何度か定期的 に通って、根気強 くムダ毛を処理し 続けていく必要が ある。 永久脱毛と言っ ても、いきなりす べてのムダ毛が消 えてなくなるわけ ではない。 しばらくすると、 生き残っていた毛 根がまた、肌の表 面に顔を出してく る。そのたびに、 照射を繰り返す。 二週間から一ヶ月 おきに、数回は最 低でも通わなくて はならないという 話だった。 大抵の人は五回 も行けばほとんど ウブ毛程度しか生 えなくなるという。 その後、万が一発 毛しても、二年間 は無料で脱毛処理 を施してくれると のことだった。 つるつるになり ますよ、という話 だったのに。納得 がいかない思いで、 私はエステティシ ャンの胸の名札を、 ぼんやりと見つめ た。「TSUBOI」と 書いてある。ツボ イさんだ。 せっかくお金を かけて、脱毛をす るのだ。 こんな チキン肌では、イ ヤだ。 持ち前の完璧主 義が、また顔を出 し始めていた。 私の不満を悟っ たのだろう。 「私も、最初はお 客様のように毛穴 が目立っていたん ですよ〜」 ツボイさんは慰 めるかのようにそ う言って、つるつ るのワキになるコ ツを、教えてくれ た。 「お顔とおんなじ ですよぉ。元気が ない時やハリを持 たせたい時には、 美容クリームや、 パックが効くんで す」 顔用のパックを、 ワキサイズにカッ トして、毎日毎日、 根気よくケアを続 けたら、毛穴はほ とんど目立たなく なったのだという。 「やっぱり……家 でも努力しなくち ゃダメなんですね」 私はため息をつ いた。 友達がエステの 痩身コースに通っ ていた時のことを、 思い出す。 エステでは、サ ウナに、発汗装置 に、と、徹底的に 身体を絞ってくれ る。けれども、そ れでは一時的なこ となので、家でも 頑張ってください、 と腹筋メニューや 食事指導を出され たのだという。 ラクに痩せたい からエステにお金 払って行ってるの に、と彼女はすご く怒っていた。怒 りつつも努力して いたから、目標体 重には到達できた けれど。 エステにだけ頼 っていては、自分 の肌なんだし、ど うにもならない。 毎日エステに通え るようなマダムで もないのだから、 セルフコントロー ルをするしかない のだ。 「お客様は、今ま でご自分でどうい う処理を、されて いました?」 ツボイさんが、 ふと、心配げに尋 ねてきた。剃って いる人なら毛根が あまり痛んでいな いので、普通の肌 になるのが容易な のだが、毛抜きを 使っていた人は、 何度も毛根が引き 抜かれているがた めに、かなり毛穴 も目立ってしまう のだという。 「私、この数年は、 ずっと毛抜きでし た……」 唇を噛む。 彼女も、少しの 間、口ごもった。 「でも、大丈夫。 少し時間はかかる かもしれませんけ れど、毎日努力し ていれば、かなり 綺麗になると思い ますよ、ほら」 時々お客様にお 見せしちゃうんで す。 彼女はそう呟き ながら、薄ピンク 色の制服の袖をめ くり、ワキの下を 晒してくれた。 「すごい……」 私はため息をつ いた。 頬と変わらぬほ どの繊細なきめ細 かい白さが、その 窪みにあった。触 れたらきっとつる つると、たまらな い滑らかさがある のだろう。 毛穴など全く見 えず、青白いほど の美しい輝きだけ が、そこにあった。 女というのは、こ こまで美しい部分 を持っていたのか、 と息を飲むほどの 艶めかしさだった。 「一朝一夕じゃ無 理ですけど。毎日 頑張ればお客様だ って、きっと……」 彼女の言葉に、 思わずはい、と頷 いていた。 負けず嫌いの私 は、その日から努 力を始めた。ワキ パックも、ワキに クリームを擦り込 むことも、毎日欠 かさずにやってい る。エステティシ ャンは嬉しそうに、 パック四千八百円 とクリーム三千円 のレシートを渡し てくれた。 結局は彼女の勧 誘にハマっただけ なのかもしれない。 でも、何もしない より、何かやった ほうが、お肌のた めには、絶対いい はずなのだから。 <ここまで>
乳首 〜パニック障害〜
指 〜貢いでしまう女 〜
クリト リス 〜友達以上恋人未 満〜
唇 〜恋愛恐怖症〜 耳 〜流産〜
背中 〜チャットセック ス〜
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